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ここでは皆さんにスリランカの蝶についてご案内します。ご案内するのは、この道40年の偏屈中年、サマナレヤ教授であります。

その独断と偏見に満ち他の追随を許さない高説の数々は、斯界においても極めて高い評価を得ているところであり、豊富な知識と経験に裏付けられた「スリランカ蝶バカ日誌」をひもとけば、あなたも蝶の専門家????
Reported by Mr.N.A
    サマナレヤとはシンハラ語で蝶という意味だそうです。
2001年10月16日更新

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その5セイロン ローズ

6月のシンハラジャ・フォーレスト。夜来の雨があがり、朝の清々しい空気、斜めに差す陽の光り、熱帯雨林にびっしりと覆われたギン・ガンガ沿いの小径、調った舞台装置、私はひたすら舞姫の登場を待つ。その名は、セイロン・ローズ!

ご存知のように、スリランカには年に2度のモンスーン時期があります。12月から2月にかけての北風ビュービューのモンスーン、5月から9月頃まで続くインド洋からのモンスーン。島の南西部では、このインド洋から湿った風が吹いてくる時期に雨の多いシーズンを迎えます。

過去4年の経験では、スリランカにおいて、どうもこの雨期というのはあんまりはっきりしません。年によって雨が多かったり今年のように殆ど雨が降らなかったり、でも他の時期に比べると、天気が悪いことが多いなあ、そういう気はします。年がら年中夏のスリランカでも、チョウを観察するのに一番良い時期はこの雨期に入る直前から暫くの間です。つまり4月から6月がスリランカ南西部のチョウのベスト・シーズンということになります。

何故そうなるかと言うと、雨の多い時期に幼虫の食べる食草が伸長するからで、その時期に合わせて成虫が現れ、♂と♀が結婚し、次世代の卵を産む訳です。但し、これは大まかな話で、実際には植物ごとに成長時期がずれ、特に熱帯地方ではかなりバラけます。また、その年の雨の状況によっても平気で1ヶ月くらいのズレはあるようです。

さて、雨期のジャングルでの一番の大敵はヒルです。皆さんはヒルを見たことがあるでしょうか?全く、世の中の生き物の中でヒルほどおぞましいヤツはいない、というのが私の考えです。ジャングルの周辺の丈の低い草に覆われた小径を5分もブラブラ歩けば、あなたのズボンを首を振り振り上がって来る茶色の物体が見られる筈です。身の丈2-cmほど、首を一杯に伸ばすと5cmほど。ブラッド・サッカー、ヒル君の登場です。

初めてシンハラジャに来た98年の6月、私は何も警戒せずに雨に濡れたジャングル脇の小径を歩いていました。ジーンズを穿いて長靴を履いて30分ほど。ふと見下ろすと、アレッ、アレレッ、アレレレレーーーーー。長靴、ジーンズ、シャツ、一体幾ついるのか分からないほど沢山のヒルがドンドコドンドコ這い登っています。幾つか摘んで落としましたがキリがない。とにかくヒルのいない場所へ行こう。一目散に小径の入り口に向かって駆け出しました。

入り口に小さな広場があって、丁度通り掛った村人がいました。助けてくれ。私の姿を一目見て彼は直ぐに状況を理解しひとつひとつヒルを剥がし始めました。首にまで達していたものもいて、上から順に摘んでは落とし摘んでは落とし、長靴の中にまで潜り込んでいたものもいて、全部で30匹以上はいたでしょう。もう大丈夫。サンキュ、サンキュ。

ヒルは哺乳動物の吐く息から二酸化炭素を嗅ぎつけると物凄い勢いで寄ってくると言います。そして、それにたかると直ぐに噛みつく場所を探します。柔らかくて噛みつき易い場所。足の指の股とかふくらはぎ、太腿、腹、背中、肩、首、どこでもいいんです。チクッという微かな痛みとともに吸血が始まります。血を吸われている間何の痛みもありません。たっぷり血を吸ったヒルは紫色がかった茶色のナメクジと化します。おお、いやだ。

この4年間、私は幾度となくヒルに襲われ、知らない間に血を吸われ、幾度となくズボンやシャツを血に染めてきました。始末が悪いのは、血を吸われた後、血が止まらなくなること、無理に引き剥がすと後でそこが腫れたり、猛烈に痒くなったりすることです。ったく、ヒルってヤツは、です。

えーと、セイロン・ローズでしたね。セイロン・ローズについて語る時、ヒルの話をしない訳にはいきません。セイロン・ローズは島の南西部のジャングルに限って生息するものですから、常にヒルとセットです。こんなおぞましい体験をしないと会えないチョウ、セイロン・ローズ。さて、それは一体どんなチョウでありましょうか?

レッドデータというものがあります。世界のチョウのうち絶滅に瀕している種類をリストアップしており、我がスリランカからも3種類のチョウがその対象になっています。セイロン・ローズも堂々と絶滅危惧種としてリストの上の方に登場します。ラテン名を「パクリオプタ・ジョホン」と言い、チョウの愛好家の間ではジョホンで通用します。日本でもお馴染みのアゲハチョウの仲間で、沖縄辺りにいるベニモンアゲハの親戚筋になります。ローズというのはベニモンアゲハ・グループの英語名です。

もともとスリランカの、それも限られた地域でしか生息を確認されておらず、分布範囲が狭いうえに、周辺のジャングルが次々と茶畑に変っていくに連れて、絶滅が危ぶまれる状態に追い込まれたものです。

飛び方は極めて緩慢。言い換えれば極めて優雅。ジャングルの中を何処からともなくフワーッと現れ、ランタナなどの花の蜜を吸い、またフワーッと何処かへ消えていきます。飛翔中は黒地に白紋が映え、さらに腹の赤がアクセントになり、うっとりするほど綺麗です。

マータラから北へ伸びる国道を70kmほど入って行くと左側の斜面が鬱蒼としたジャングルに覆われるようになります。ここからデニヤヤの町に至るまでの道沿いにもセイロン・ローズは現れます。ただ、ここも年々クルマの通行量が増えて、見かけることが少なくなってしまいました。

セイロン ローズ
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デニヤヤの奥のシンハラジャ・フォーレストまで行けば、まだまだセイロン・ローズは健在です。と言っても、もともと数の少ないチョウですから会えただけでもラッキーです。雨期の合間の晴れ間、小径に蠢く無数のヒル達を踏みしめながら、さあ、会いに行こうじゃありませんか、セイロン・ローズ!

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